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Dark 1 ダーク (シーズン 1)

ドイツTVシリーズ (2017)

Netflix初のドイツ語のオリジナルTVシリーズ。放映は2017年12月1日にシーズン1を一括配信した。タイムトラベルに新境地を開いた話題作。かつて、2004年に始まった『Lost(ロスト)』は、一種の社会現象にもなったほど高い評価を得、私もそのシリーズを追うごとに拡がる巧みな展開に圧倒された。その時のIMDbの人気度は、各シリーズの平均値と標準偏差で見ると、1(8.70、0.40)、2(8.56、0.45)、3(8.58、0.53)、4(8.71、0.51)、5(8.68、0.28)、6(8.39、0.42)となる。平均値の高さと、標準偏差の低さから見れば、シリーズ5がベスト、最終シリーズ6がワーストとなる。シリーズが終わりに近づき、盛り上がったところで、結末のつけ方が視聴者を100%満足させられなかったことを示している。一方、『Dark(ダーク)』はどうか? シーズン1(8.68、0.38)、シーズン2(9.36、0.23)。ただし、特にシーズン2の方は時間の経過とともにどんどん下がる傾向にある(現にこのサイトで公開を始めた2019.8.20にはシーズン2の最終回のIMDBは9.9だったが、29日には9.6に落ちている/票数5320)。それでも、依然として高評価であることに変わりはない。『Dark(ダーク)』の舞台となっているのは、原子力発電所で成り立っている北ドイツの架空の町ヴィンデン(Winden)。主だった登場人物の家系は、ニールセン、カーンヴァント、ティーデマン、ドップラーに限定され、時代が1953年、1986年、2019年に拡がっているため、同じ家系の父母から子供が複雑に絡み合っている。こんな小さなグループの中で生まれた1人の狂人が、世界全体の運命を左右するという発想〔シーズン2〕は、ヒットラーを思わせて強く反撥を感じる。しかし、シーズン1の範囲内、特に、11歳のミッケルが巻き込まれる “時間の罠” は、新鮮な発想で、そこだけ取り上げてみると面白いと思い、TVシリーズではあるが、例外的に紹介することにした。なお、翻訳にあたっては、台詞をそのまま受け継いだドイツ語字幕をベースとした。また、人物関係の理解にあたっては、ファンサイト「DARK WIKI( https://dark-netflix.fandom.com/wiki/Dark_Wiki)」を参考にした。

ミッケルは、2019年に生きる 手品が好きな11歳の明るい少年。11月4日の夜遅く、兄と姉、年上だが仲良しのヨナスの4人で原子力発電所の近くにある洞窟の入口まで行ったところで、洞窟の中から異様な音が響き渡る。怖くなったミッケルはヨナスと一緒に逃げるが、途中ではぐれ、以来ぷっつりと姿が消えてしまう。折しも、10月22日にエリックという15歳の少年が行方不明になったばかりなので、町は騒然とする。特に、ミッケルの父ウルリッヒは警察官(階級は示されないが、署長に次ぐ地位)でもあるので、息子の捜索に必死になる。翌11月5日には、捜索中に、死後約16時間、10-12歳と思われる別の身元不明の少年の遺体も発見される。目と耳が破壊され、顔は分からない。一方、ミッケルは、11月5日、あちこちに軽い怪我をした状態で家に戻る。すると、家にいたのは、これまで見たこともない人々。学校に行っても、誰一人見たこともない。そこで父がいるはずの警察を訪れる。しかし、そこにいたのは、エゴン警部。彼は、1986年10月9日に行方不明になった12歳のマッツの捜査を担当していた。そして、彼と話すうち、ミッケルは、自分が1986年11月5日にいることを認めざるを得なくなる。この、信じられない出来事は、ミッケルにとって耐えられない大きなショックで、彼はPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまう。ミッケルが怪我をしているので、エゴンは病院に連絡を取り、看護婦のイネスが迎えに来る。しかし、病院に行ったミッケルは黙りこくって名前すら言わない。初めて口をきいた時に言った言葉が、「僕、未来から来たんだ」とあっては、変な子だと思われても仕方がない。11月7日の夜、ミッケルは、病院を抜け出して洞窟に行くが、脚を骨折しただけに終わり、絶望感はますます深まる。そんなミッケルの心を少しでも癒したのは、洗濯屋の娘ハンナとの出会いと、優しさに徹する看護婦イネスの存在だった。2019年11月8日、ヨナスは、未来のヨナスからの指示で洞窟に向かい、1986年11月9日、病院でミッケルを発見し連れ戻そうとする。しかし、未来のヨナスは、「お前がミッケルを連れ帰れば……お前は生まれない」と言って、それを阻止する〔なら、なぜ行かせたのか?〕。その頃、ウルリッヒは、容疑者No.1の男ヘルゲを追って洞窟に入るが、分岐点でヨナスとは逆方向に進み1953年に出てしまう。そして、その時代のヘルゲ(9歳)を殺せば、すべては元に戻ると思い、煉瓦で耳がつぶれるほど何度も頭を殴る。しかし、死んだことを確かめなかったため、ヘルゲは生き残り、変化は起きず、逆に、ウルリッヒが若い頃のエゴンにより、連続殺人犯として逮捕されただけだった。ウルリッヒが殺したとされる1人の12歳の少年マッツは、ウルリッヒの弟だった〔1986年のヘルゲが2019年に運んで森に捨てた]。一方、病院では、ミッケルがイネスに心を開くようになっていく。そして、11月12日に青少年局の女性職員が孤児院に引き取り来た時、40歳を過ぎても独身で寂しかったイネスは、ミッケルを養子にしたいと申し出る。こうして、ミッケルは1986年の住民としてイネスの家に住むことになり、ウルリッヒは、証拠不明のまま犯罪者として1953年に閉じ込められる。シーズン1の冒頭は、44歳になったミッケルが2019年6月21日に首を吊って自殺するところから始まる。主役のヨナスは、ミッケルとハンナが結婚して生まれた子供だ。なお、この解説も、下のあらすじも、ミッケルに関係する部分のみ。

ミッケルを演じるのは、ダーン・レナード・リエブレンツ(Daan Lennard Liebrenz)。2005年11月22日生まれ。シーズン1の撮影は2016年10月31日~12月2日なので、10歳の終わりから11歳になったところ。ダーンは、5歳の頃からTVのシリーズものに端役として出演し、6歳の時は『Meeres Stille』(2013)で幼児時代の主人公を演じている。その後も、将来紹介する『Timm Thaler oder das verkaufte Lachen(ティム・ターラー/笑いを売った少年)』(2017)にも出ているが、端役。重要な役は、このミッケル役が初めて。PTSDの少年なので、表情に限りはあるが、重要な役どころを上手に演じている。


あらすじ

シーズン1第1話「秘密」の冒頭、「過去、現在、未来との違いは厳然としているように見えるが、幻影に過ぎない」という言葉が示される。そして、独白。「我々は、時間は一方通行だと信じている。永遠に変わることなく進み続けると。未来永劫に。しかし、過去、現在、未来との違いは幻影でしかない。昨日、今日、明日は連続したものではなく、終わることのない循環により結びついている。すべては、つながっているのだ」。こうして、歴史に名を残すであろうTVシリーズが開幕する。時は、2019年6月21日。この番組が公開された2017年から見れば既に未来だ。最初に映るのは、シリーズで最も重要な登場人物ヨナス・カーンヴァントの家。この紹介での中心人物 11歳のミッケル・ニールセンが、ある意図により33年前の1986年11月5日に連れ去られ、看護婦イネス・カーンヴァントの養子となり、ミハエル・カーンヴァントと名を変え、32年以上暮らした家でもある。ヨナスはミハエルの息子にあたる。この6月21日、ミハエルは遺書の入った封筒を残し、首を吊って自殺する(1枚目の写真)。封筒には、「11月4日、午後10時13分まで開けるな」と書いてある。夜の森を、ミシェル、兄マルヌスと姉マルタ、そして、ヨナスとその友人バルトシュ・ティーデマンの5人が、ヴィンデン洞窟に向かう姿が映る。場面は、再びヨナスの家になり、今度は、2019年11月4日と表示される。ミハエルが、無理矢理1986年に連れて行かれた日だ。この日の朝、ヨナスが子供部屋で起きた頃、未亡人となったハンナ・カーンヴァントは ウルリッヒ・ニールセンと、自分のベッドで愛し合っていた。ヨナスの母でもある彼女は、1986年、まだハンナ・クリューガーだった14歳の時から、2歳年上のウルリッヒに片思いを寄せていた。そして、ウルリッヒがカタリーナとセックスをしているのを見て嫉妬し、警察に暴行容疑で訴えたことすらあった。その後、ウルリッヒはカタリーナと結婚し、ミッケルをはじめ3人の子供をもうけたが、ハンナは、いつ頃からかは不明だが、ウルリッヒと愛し合う仲になっていた。だから、この日の朝も、2人は激しいセックスを楽しみ、ヨナスが起きたと分かると、互いに服を着てキスを交し(2枚目の写真)、ウルリッヒは窓から抜け出して、そのままジョギングして自宅に向かう。ヨナスがミハエルの息子ということは、ミハエル=ミッケルなので〔そのことは、誰も知らない〕、ウルリッヒはヨナスの祖父にあたり、ヨナスが好きなウルリッヒの長女マルタは、血の繋がった伯母になってしまう。一方、ウルリッヒは、1986年に、自分の弟マッツが失踪するという不幸な経験を持っていた。この失踪は、後で登場するノアというタイムトラベラーが、ヘルゲ・ドップラーに命じて拉致させ、タイムマシンの実験用に使い、失敗して死亡させたことによって起きたものだ。
  
  

ミッケルの家では、母であり、彼が通う学校の校長でもあるカタリーナは、息子の服装を見て、「そんなじゃ、学校に行けないわよ」と注意する。「いいマジシャンは、それなりの格好をしてないと」。「すぐに着替える。いいわね」。「僕の仕事着だよ。それに、学校は最悪だ」(1枚目の写真)。「フーディーニだって学校には行ったのよ」。そこに、ウルリッヒがジョギングから戻ってくる。「なぜ、こんなに時間がかかったの?」。「学校の最初の日だから、パン屋に長い列ができてて」、と買ってきた朝食用のパンを渡す(2枚目の写真)〔北ドイツでは、10月の終わりから11月初めにかけての約1週間が秋休み(Herbstferien)〕。兄マルヌスは、自分で勝手に置き忘れたパーカーを捜していて、イライラすると、兄の特権で、すぐにミッケルの頭を後ろからパンと叩く。姉のマルタは、第三世界の餓死する子供たちのために、ハンガー・ストライキの真っ最中。マルヌスが「お前が盗んだのか」と言いながら3度目にミッケルの頭を叩いた時、ミッケルは、「ママ、僕、何もしてない」と訴える(3枚目の写真)。母は、マルヌスには洗濯機の中を見てくるよう、マルタには食べるよう、ミッケルには、「着替えなさい。最後の警告よ」と言う。
  
  
  

ミッケルは、母の命令に逆らうように 食卓テーブルに座って腕を組む。父は、「分かった、フーディーニ」と言って、手品用の黒い帽子をかぶせる。「手品を1回やったら学校に行くんだ」(1枚目の写真)。母は、「勝手にするといいわ」と、夫の方針に愛想を尽かす。ミッケルは黄と青のカップを2つ置く。黄のカップの前には小さなポーンが置いてある。①ミッケルは黄のカップを取り上げ、中が空であると父に見せる。②青のカップを取り上げ、中が空であると見せる(2枚目の写真)。③黄のカップをポーンの上にかぶせる。④青のカップを黄のカップの位置にずらす。⑤黄のカップを上げると、中は空。⑥青のカップを上げると、中にポーンが。この場面は、次のサイトで見ることができる⇒( https://www.youtube.com/watch?v=2F1S8WIdnmQ)。よくある3つのカップを移動させる子供向きの簡単な手品とは違う。父は、「すごいな。どうやったんだ?」と質問する。ミッケルは、「パパ、問題は、“どう” じゃなく “いつ” なんだ」と、謎めいた返事をする。この場面は、ミッケルは黄のカップ(2019年)から青のカップ(1986年)に移動することを象徴するものだと、ファンには受け止められている。“いつ” という言葉もそうで、時間の移動はこのシリーズの骨子でもある。
  
  

その日の夜、ニールセン家の3人、ヨナスとバルトシュの計5人は、廃線レール上に集まる。学校では、最近行方不明になったエリックという少年についての父兄集会が行われていて、子供たちだけの危険な夜間外出を止める者は誰もいない。ミッケルは久し振りにヨナスに会い〔ヨナスは父の自殺後、セラピストにかかり、夏休み後も学校を休んで誰にも会わなかった〕、「究極のグータッチだ〔Ultimate fist bump〕」と言って 握りこぶしを合わせる(1枚目の写真、矢印)〔シーズン2になって重要な意味を持つ〕。マルタは、ミッケルを連れて来たマルヌスに、「家に戻しましょ」と言うが、「なら、お前が連れて帰れ」と言われ、さらに、ミッケルからは、「なに言ってんだよ。僕はもう赤ん坊じゃないんだ」と反論され、何も言えなくなる。森の中を歩いている時、ミッケルが、「ねえ、エリックは どうなったと思う? 僕のクラスじゃ、誰かがエリックを拉致して地下室に閉じ込めてるって意見だった」と話すと、「黙れ。逃げ出しただけだろ」と叱られる。ミッケル:「だけど、あり得るよ。監禁されれば出られない。でも、誰がやったんだろ? 監禁するなんて」〔33年前のマッツと同じで、1986年、ノアがヘルゲ・ドップラーに命じて未来の少年を拉致させ、地下室に監禁しタイムマシンの実験用に使っている〕。「ヘンゼルとグレーテルの魔女みたいだな。お腹が空くと 食べるんだ」。ミッケル:「エリックがもう生きてなかったら? 死体になってて、見つかってないだけだったら? それって最悪だ。もし、死んじゃっても、せめて見つけて欲しいよね」(2枚目の写真)。姉:「誰も死んでないから、何も見つからないの。分かった? 話題を変えましょ」。5人は、原子力発電所の敷地を囲うフェンスの前を通る(3枚目の写真)〔ヴィンデン原子力発電所は、1960年に建設が始まり、2020年に違法な方法で廃炉にされる〕
  
  
  

その頃、今では別な場所に住んでいるイネス・カーンヴァント〔ミッケルの養母、ヨナスの母〕は、封筒に書かれた「11月4日、午後10時13分」の時間がくるのを、ひたすら待ち続けていた。そして、時計が13分を指すと、封筒を開ける。5人は、洞窟の入口にさしかかっていた(1枚目の写真、矢印は洞窟の入口)。バルトシュは、入口の脇に放置してあったソファの中を探るが、目当ての物がなくなっている。すると、洞窟の中から大麻の入ったビニール袋を持ったフランツィスカ・ドップラー〔警察署長シャルロッテ・ドップラーの娘/その日、学校で、バルトシュが大麻を吸っているのを見ている〕が現れ、今は自分が持ってるので 所有権は移動したが、売ってあげてもいいと言う。バルトシュは、袋を奪い取るが、その時、洞窟中から大きな音が響き渡る(2枚目の写真)。バルトシュ:「あれ、何だ?」。森の中では枝の折れる音がする。姉:「誰かいるわ」。洞窟中からは再度凄まじい音が。そして、懐中電灯の光が一斉に点滅し始める。バルトシュ:「どうなってる」「逃げろ!」。ミッケルは、恐怖で凍りついている(3枚目の写真)。
  
  
  

ヨナスと一緒にいたミッケルは、ヨナスに促されて一緒に逃げ出す(1枚目の写真)。2人は一緒に森の中を走る。しかし、ヨナスが転倒し、起き上がった時には、ミッケルの姿はどこにもなかった。外は、土砂降りの雨となる。4人(兄姉、バルトシュ、フランツィスカ)は、先に町に辿り着く。「ヨナスとミッケルはどこだ?」。その時、ヨナスが一人で走ってくるのが見える。一緒になった時、兄は、すぐに、「ミッケルはどこだ?」と訊く。ヨナスは、「君たちと一緒じゃなかったのか?」と責任を転嫁する。姉:「あなたと一緒だったでしょ!」。集会中の父兄の電話が一斉に鳴り出す。そして、ミッケルがいなくなったことが知れ渡る。パトカーが直ちに出動する。ミッケルの父ウルリッヒは警官なので、心配のあまり一人で真っ暗な森の中に飛び込んでいく。後は、家族同士が抱き合う(2枚目の写真、左端は兄、その右はミッケルの母〔校長〕と姉、中央はバルトシュとその母〔レジーナ・ティーデマン〕、右端はフランツィスカとその母〔署長〕)。ウルリッヒは洞窟の前まで行き、何度も息子の名前を呼ぶが、応答はない。
  
  

翌日は 洞窟の入口で、早朝から徹底的な捜索が始まる。遅れてやってきた署長が、「何かみつかった?」と訊くが(1枚目の写真)、返事はノー。その後の、警官多数が一線状になって森を調べる探索の結果、枯葉で隠すように埋もれている少年が発見される。それを、警察無線で聴いたウルリッヒは、発見現場に駆けつける。署長は、てっきりミッケルの死体だと思い、ウルリッヒが来るまで手を付けずに待っている。ウルリッヒが枯葉をどけると、運動靴は、ミッケルが履いていたものと違い、えらく旧式のもの。朝着ていた骸骨のシャツもない。顔の部分の枯葉をどけると、目の部分が真っ黒に焼け焦げているが、ミッケルではないことが一目で分かる。ウルリッヒは、すぐに、「ミッケルじゃない」と署長に告げる。ここから、第2話「嘘」に入る。署長は、検死係の女性医から、新たに発見された犠牲者が、10-12歳、死後約16時間、性的暴行なしだが、目が溶けたように黒焦げになっているだけでなく、外耳道から内耳まで破壊されていることが異常だと告げられる。また、身にまとっているものは、すべて80年代のもので、近くに落ちていたウォークマンも80年代のものだ〔この少年は、33年目に行方不明になったウルリッヒの弟マッツ/死後すぐ、1986年から2019年に運ばれ、森に捨てられた〕。ウルリッヒは、洞窟の中を捜索している間に、原子力発電所に関連する謎のドアを発見する。そして、署長に、エリックもミッケルも、今度見つかった少年も、33年前に消えた自分の弟のマッツも、すべて原子力発電所の近くなので、すべては関連していると自説を話す。署長は納得し、捜査令状を取ることにする〔許可は下りない〕。それだけではなく、森の中の捜索も徹底的に行われるが(2枚目の写真)、ミッケルの痕跡は全く見つからない。一方、バルトシュの母レジーナが経営する “閑古鳥” の鳴いているホテルに、久し振りに客がやってくる。みすぼらしい身なりの男は、部屋に入ると、自分の “研究” に役立ちそうな資料を壁一面に貼っていく。その中には、ミッケルの失踪を告げる新聞記事もある(3枚目の写真)。彼は、「Wo ist Mikkel?(ミッケルはどこに?)」の “Wo” を消し、その上に “Wann” と赤字で書く(英語で書けば、WhereをWhenに訂正した)〔ミッケルが別に時代にいることを初めて示すもの〕
  
  
  

時間は、11月5日の早朝に戻る。ミッケルが、洞窟から出てくる(1枚目の写真)。あちこち擦り傷だらけだ。照明器具を何も持ってないので、岩にぶつかったり、転んだりしたのだろう。洞窟を出て辺りを見回すと、何となく様子がおかしい。それで、何となく怖くなり、走って町に向かう。そして、家の前までやってくる(2枚目の写真)。家の前には古い車が停まっているし、門の中に置いてあるホンダの古いバイクも見たことがないし、奥に停めてある古い小型車も初めて見るものだ。家のドアは閉まっていて開かない。ガタガタ揺すっていると、中からドアが開き、見たことのない青年が出てくる。ミッケル:「誰なの?」(3枚目の写真)。自分の家から、他人が出てくれば、誰でもそう訊くだろう。ところが、相手も、「何だと? お前こそ誰だ?」と訊き返す。「ミッケル。ここに住んでる」。「ウルリッヒ。俺も ここに住んでる。家ぐらい間違えるな、この間抜け」。その時、通りから、同年代の女性が声をかける。「ねえ、ウルリッヒ、行くわよ」。「ああ、カタリーナ、今行くよ」。ウルリッヒは父の名、カタリーナは母の名だが、動転したミッケルには、そこまで考えるゆとりはない。
  
  
  

2人がバイクに乗って出かけた後、ドアの前に配達された新聞に目をやると、一面トップで、「チェルノブイリから半年」という見出しが躍っている(1枚目の写真)。ミッケルが目をこらして見ると(2枚目の写真)、そこには、「1986年11月5日」という発行日が載っている〔チェルノブイリ事故の発生は4月26日。事故の一応の終息は5月5日なので、ここから半年という意味か?〕。この時点では、ミッケルは、まだ事態を100%把握してはいない。
  
  

ここから、第3話「過去と現在」に入る。ウルリッヒと名乗った青年は、ドアを閉めていかなかったので、ミッケルは家にそっと入って行く。家の中の様子も全く違っている(1枚目の写真)。居間のソファに誰か横になっているので、「ママ?」と呼びかける(2枚目の写真)。横になっていた女性は、思わず、「マッツ?」と言って半身を起こして振り返る。しかし、それはマッツではなかった。「あなた誰なの?」。「僕の両親はどこ?」(3枚目の写真)。女性は、ミッケルの前まで来ると、変な服装を見て、「あの子が、どこにいるか知ってるの? マッツはどこなの?」と腕をつかんで訊く。「痛いよ」。「ここで何してるの? 何か言いなさい」。ミッケルは、つかまれた手を何とか振りほどくと、怖くなって家から逃げ出す。このあと、病院の廊下で、夜勤の交代を頼まれる看護婦のイネスが映る。そこで分かるのは、イネスが40代の半ばになっても寂しい独身だということ。次に映る警察署では、退職直前のエゴン・ティーダマンが警察の怠慢を批判したマッツ失踪事件の新聞を前に、考え込んでいる。ウルリッヒの弟、12歳のマッツは、1986年10月9日に失踪し、以来、1ヶ月経っても手掛かりはゼロだった。
  
  
  

ミッケルは、何か手掛かりはないかと、学校に行ってみる。見知った顔は1人もいない(1枚目の写真)。玄関には、「行方不明 マッツ・ニールセン」の写真入りポスターがベタベタと貼ってある。ミッケルが中に入って行くと、さっき家の前で会った女性(カタリーナ)が、他の2人と話している。ミッケルが顔を見ると、「何、見てんのよ? あんた、今朝、ウルリッヒのトコにいなかった?」と訊く。左端にいた女の子〔ハンナ・クリューガー、未来のミッケルの夫〕が、「あんた新入り?」と訊く。ミッケルは、首を横に振り、「僕、ママを捜してる」と言う。カタリーナは、「ここは、幼稚園じゃないよ」と軽蔑する。ミッケル:「ここの校長だよ」。カタリーナは、「フーバート先生? 彼、ホモなんだ。だって、どうみても女性じゃないもん」と笑う(2枚目の写真)。「ここ、ヴィンデンじゃないの?」(3枚目の写真)。「LSDやるには、早過ぎない?」。ミッケルは、救いようのない顔で、3人を見送る(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ミッケルは、父が勤めている警察に行く。そして、父の部屋に行くと、一人の老警官が座っている。そして、「そこで、何してる?」と質問される(1枚目の写真)。「僕… 父さんを捜してます」。「お父さんの名前は?」。「ウルリッヒ・ニールセン」。この警官エゴンにとって、それは悪い冗談でしかなかった。「ウルリッヒ・ニールセンだと?」。「ここで、働いてません?」。「ない。奴は、そんな気には絶対ならん。これは冗談なのか? ウルリッヒの下らん発案なのか?」。そう訊きながらエゴンは席から立ち、ミッケルの前に来ると、顎をつかんで顔を上げさせる。そして、顔の傷を見て、「奴にやられたのか?」と訊く。ミッケルは首を大きく横に振る。「君の名前は?」。「ミッケル」。「姓は?」。「ニールセン。ウルリッヒの息子です」(2枚目の写真)〔この時点で、ウルリッヒは16歳〕。「君の、本当の両親の名前を言いなさい。家まで連れて行ってあげよう」。「今日は何日ですか?」。「11月5日だ」。「何年の?」。「1986年だろ」。ミッケルは、衝撃を受ける。茫然とするミッケルを前に、エゴンは病院に電話をかける。「ティーダマンだ。ケガをした子がここにいる。誰か引き取りに寄こしてもらえないか?」。電話を終えたエゴンは、「君を世話してくれる人が誰か来るだろう。その間に、私はウルリッヒを とっちめてくる。奴には、二度と暴力を振るわせん」と言い、ミッケルを部屋に残して出て行く〔エゴンは、ウルリッヒを弟マッツの失踪に関与しているのではと疑っている。だから、ミッケルを殴り、この狂言を仕組んだと判断した〕
  
  

ミッケルは、エゴンの机に座ると、電話をかける(1枚目の写真)〔どこにかけたのかは分からない〕。かけた番号は、未登録で無効だった。次にしたことは、机の上に置いてあったライターを手に入れたこと(2枚目の写真、矢印)。これで、帰るために洞窟に入った時、困らなくて済む。そして、机の上に置いてあった1枚の紙に目を留める(3枚目の写真)。それは、取調べ調書で、マッツ・ニールセンの失踪に関する、レジーナ・ティーデマンの証言だった〔ウルリッヒの同級の娘で、ウルリッヒに虐められたことがある〕。次に、ミッケルが手に取ったのは、新聞の切抜き。標題は、「ヴィンデンの少年(12歳)、跡形もなく消える」というもの。もう1つの記事は、「ヴィンデン警察が協力を要請/マッツ・ニールセン(12歳)、先週から失踪/少年に何が起きたのか?」というもの。ミッケルは、2人の青少年が映ったカラー写真にも手を伸ばす。裏には、マッツ+ウルリッヒ・ニールセンと手書きしてあった。これらを見て、ミッケルは、自分が1986年にいることを100%納得する。
  
  
  

ノックの音がして、1人の看護婦が入ってくる。将来、ミッケルを養子にするイネスだ。「今晩は。看護婦のイネスよ。でも、イネスって呼んでちょうだい。これから病院に連れて行くわ。腕を調べてみるわね。そしたら、オウチまで無事に届けてあげる」(1枚目の写真)。優しい言葉にもかかわらず、ショックの方が大きいミッケルは、何も言えない。その頃、エゴンはウルリッヒの家に行き、彼をとっちめようとするが、話は全く噛みあわない。エゴンには飲酒癖があり、ウルリッヒから逆に “酔っ払って支離滅裂なことを言っている” と嘲られる始末。しかも、そこにウルリッヒの母が入って来たので、マッツの失踪に何の成果も上げていないエゴンは、引き下がるしかない。病院に連れて行かれたミッケルは、医者の診察を受け(2枚目の写真)、擦り傷だけだと確認される。しかし、医者に「どうして、こんなことに?」と訊かれても、うつむいているだけ。「まだ、名前すら話してくれてないね」。これにも無言。「イネス看護婦が包帯をしてくれる。いいね? そしたら、家に帰ってもいい」。まだ無言。医者はあきらめて出て行く。イネスに渡されたカルテの患者欄は、空白のままだ。医者が出て行っても微動だにしないミッケルを見て、イネスは心配になり、前まで行く(3枚目の写真)。すると、ミッケルは泣いていた。イネスは、医者の座っていたイスに座ると、頬に触り、「泣かないで。何とかなるわ」と優しく話しかける。
  
  
  

イネスは ミッケルの左手に包帯を巻きながら、「名前や住所を教えてくれないの?」と尋ねる。返事はない。「家に帰りたくないの?」。返事はない。「もし、家に帰りたくなければ、しばらくここにいていいのよ」。病院に来てから、初めてミッケルの顔がアップになる。相変わらず、何も言わない(1枚目の写真)。「話したくなったら、私はずっといるから。今日は夜勤なの」。返事はない。イネスは立ち上がると、サイドテーブルに置いてあった漫画雑誌数冊をミッケルの脇に置き、「これでも読んだら」と言い、ベッドから立ち去ろうとする。その時、初めてミッケルが口をきく。「僕、未来から来たんだ」(2枚目の写真)。「今、何て言ったの?」。「未来から来たんだ」(3枚目の写真)。イネスの顔は複雑だ。元々あり得ない話だし、ミッケルに渡した雑誌が「キャプテン・フューチャー」だったことから、それに触発された可能性も頭に浮かんだからだろう。話を信じていない証拠は、せっかくミッケルが沈黙を破ったのに、イネスが、それ以上 何も訊こうとしなかったこと。
  
  
  

病院では、照明が点滅する〔以前にも、ミッケルたちが洞窟の前にいた時も起きた。これは、過去と未来をつなぐ接点を誰かが通っている間に起きる現象。飛んでいる鳥も死んで落下する〕。ミッケルは、病室のドアを開け、看護婦達が走り回っているのを見ると(1枚目の写真)、いいチャンスだと思い、カーテンを開け(2枚目の写真)、窓から逃げ出す(3枚目の写真)〔病室は1階にある〕。その頃、バス停〔屋根付き〕に座ってタバコを吸っていたウルリッヒを見つけたハンナは、密かに思いを寄せているので、声をかけて寄って行き、隣に座る。そして、点滅を見ながら、「これって、世界の終わり?」と訊く。「ちょっとがっかりだな」。「もっと凄いものかと思ってたわ」。ハンナにとっては、2人だけでウルリッヒといられる貴重な瞬間なのだ。
  
  
  

真っ暗な森を、ミッケルは洞窟に向かって全速で走る。そして、入口に辿り着く(1枚目の写真)。誰も後を追ってこないのを確かめると、ライターの火を点け、慎重に中に入って行く。照明の不調が終わった病院では、イネスがミッケルの様子を見に来て、窓から逃げ出したことを知る。一方、2019年では、息子のことが気がかりでならないウルリッヒが、洞窟へと向かう。ミッケルは、ライターの光を頼りに、一歩ずつ進んでいく(2枚目の写真)。そして、ある場所まで行った時(3枚目の写真)…
  
  
  

足元が崩れて、そのまま10メートルほど滑落し、岩に右脚をぶつけて骨折する(1枚目の写真、矢印は骨折した方の脚)。一方、ウルリッヒは、前回見つけた謎のドアの所まで行く。そして、持参した大きなバールでドアをこじ開けようするが、びくともしない。怒ったウルリッヒは、バールでドアを何度も叩く。なぜか、その音が、33年の時を遡ってミッケルの耳に届く。ミッケルは、誰か洞内にいると思い、「誰か! 助けて!!」と大声で叫ぶ(2枚目の写真)。今度は、その声がウルリッヒに聞こえる(3枚目の写真)。しかし、なぜか、ウルリッヒは叫び返そうとはしない。
  
  
  

返事がないので、ミッケルは、痛いのを我慢して立ち上がり(1枚目の写真)、転がっていたライターを拾い上げる。次の画面は、この作品で時々あるように、左右2つに分かれていて、左に1986年のミッケル、右に2019年のウルリッヒが対比して映される。ミッケルはやっとの思いで入口に戻ってくる。ウルリッヒは、声らしきものが聞こえてからは、何もせず、そのまま引き返してくる(2枚目の写真)。そして、お互いに、絶望に苦しむ(3枚目の写真)。
  
  
  

ここから、第5話「真実」に入る。世間は揺れ、警察は糾弾されている。11月7日、新たにヤシン・フリーズがいなくなったのだ〔1986年のヘルゲによる拉致。昨夜の点滅はそのため〕。この拉致に関して、警察は初めてノアなる人物の関与を疑う。ミッケルは病室に戻っている〔どうやって辿り着いたのだろう?〕。イネスは、ミッケルにプレゼントを渡そうとする(1枚目の写真)。しかし、ミッケルが放心状態だと分かると、プレゼントを持ったままミッケルの横に座る(2枚目の写真)。そして、「私とは、話したくないの?」と尋ねる。返事はない。「あなたが無事でいるって知らせるべき人が、いるんじゃないの? ご両親は… きっと心配してるわ」。返事はない。「何が起きたのか、言いたくなければ黙ってていいの。でも、よければ… どんなことでも、話してね。ここにいれば安心。約束する」。返事はない。ミッケルの絶望は、それほど大きい。彼は1986年に閉じ込められてしまったのだ。家族とは二度と会えない。
  
  

レジーナのホテルに泊まっていた男は、受付に大きなダンボール箱を持って現れる。そして、配送を頼み、数日でかけるが部屋はそのままに、と言って出かける〔結局、戻らない〕。箱の宛先はヨナス、配達の期限は今日の夕方。その頃、ミッケルのベッドの脇に1人の神父がやってくる(1枚目の写真)。名前はノア。やってきた理由はイネスに呼ばれたから〔1986年のノアは、ヴィンデンの聖クリストフォロス教会の神父で、ヴィンデン病院のカウンセラーもしていた/その裏で、ヘルゲに命じて1986年や2019年から少年を拉致して実験台にして殺していた〕。ノアに話しかけられても、ミッケルは、漫画雑誌を見たまま何も言わない。「君は神を信じるか?」。ミッケルはノアをチラと見て、首を横に振る。「世界はどうやってできたと思ってる? 誰が創り出したんだ?」。「世界はビッグバンで生まれた。138億年前だ。宇宙も、時間も、物質もその時創られた。地球も。あとは、進化だ」(2枚目の写真)〔2003年、NASAの宇宙探査機WMAPで137.72億年という数値が初めて確定し、2013年に137.98億年となった(最近、サイクリック宇宙論が復活している)/1986年の段階では「宇宙には始まりも終わりもないとする説」の方が有力だし、138億年と数字は知られていない〕。「ビッグバンの以前は? “無” からは、何も生まれない。ビッグバンも神による創造だったのでは?」。「父さんは言ってた。宗教は集団洗脳だって」。「君の父さんは物知りだが、全能ではない。君はすべてを疑ってかかるように育てられた。だが、時には、なぜ “疑ってかかる” のか、疑ってみたらどうだ? 神は、すべての人に役割を与えている。君にもだ」〔宗教論は別として、ミッケルには確かに重要な役割が与えられている。それは、過去に戻り、ハンナと結婚し、ヨナスを誕生させることだ。ミッケルが1986年に行かなければヨナスは生まれない。ヨナスは、老年になり、“アダム” と呼ばれる人物になるとされている(シーズン2の段階では)。そして、このアダムは、過去と未来を司(つかさど)ろうとする陰謀の主だ〕
  
  

ノアが去ってからも、ミッケルの “魂が抜けた” ような状態は変わらない(1枚目の写真)。病院を訪れた青少年局〔Jugendamt〕の女性職員は、「私達が世話をします。受け入れ家庭が決まり、査定を終えるまで、孤児院〔Heim〕に入れます」とイネスに説明する。イネスは「孤児院?」と、心配する。「しばらく、病院にいてはいけないのですか?」。「いいえ、それはできません。でも、保証しておきますよ。孤児院でも きちんとした待遇は受けられます」。そして、「あなた、お子さんは?」と質問する。「ありません。息子はいたのですが、産まれてすぐに死にました」。「お気の毒に」。そして、「この子の家族から、遅かれ早かれ連絡があると思いますよ。あるいは、学校からか。見つけ出してみせます」と締めくくる(2枚目の写真)。「彼は、とても変った子です。そして、すごく傷付きやすいんです」。「ご心配なく。水曜日に引き取りに来ます」。2019年の警察署では、ウルリッヒが署長に、「なぜ、私が警官になったと思います? 弟が消えた時、警察は多くの間違いを犯した。主任捜査官〔エゴン〕は飲んだくれだった。その時、私は、こんなことは変えなくちゃと誓った。奴のような無能な豚野郎にはなるまいと。それから33年。今の私はどうです。ただの笑い者だ。息子が消えても、なすすべもない。33年前と何も変わらない。今は、私が無能な豚だ」と胸のうちを明かす。同じ2019年、聖クリストフォロス教会の前のベンチにヨナスが座っている。ヨナスが、傍らにある 父ミハエル〔ミッケル〕の墓の方を見ていると、そこに見知らぬ男がやって来て、「彼に似てるな」と言い、墓を見て、「君のお父さんだ」と付け加える。そして、ヨナスの隣に座る(3枚目の写真)。この男こそ、レジーナのホテルに泊まっていて、ヨナス宛のダンボール箱を今日中に届くよう手配した人間だ。ヨナス:「僕達、知り合い?」。男は、「違う。だが、君のお父さんは知ってた。ずっと昔のことだが、彼のことはよく想い出す。昔、俺の命を救ってくれた。だが、そのことを理解したのは、ずっと後になってからだった」。その後の言葉は非常に抽象的だ。「命とは迷宮のようなものだ。ある者は、一生かけて出口を求めて彷徨い歩く。しかし、道は一つしかなく、それは、より深みへと導く道だ。そのことに気付くのは、中心〔Mitte〕に着いた時だけ」〔この男は、実は、33年後のヨナス。彼は、時間のからくりのことは完全に理解していて、ヴィンデン洞窟の中にあるワームホールを破壊し、タイム・ループが起きないようにしようとしている〕
  
  
  

1986年に戻り、病院の前にドライクリーニングのバンが着く。助手席に乗っているのは、ハンナ。父親は、ハンナに、「少し時間がかかる。30分かそこらだ」と言って、洗濯物の回収に出て行く。ハンナが運転席側の窓を見ると、男の子がベンチに座っている。すぐに、ミッケルのクローズアップとなり、彼は、今朝イネスにもらったプレゼントの紙を破いている(1枚目の写真)。中から出て来たのは、「僕は怖くない〔Ich fürchte mich nicht〕」という標題の架空の絵本。この絵本自体に大した意味はない。ミッケルが絵本の表紙を見ていると、隣のベンチにハンナが座る(2枚目の写真)。ミッケルは、それが、学校に行った時に、「あんた新入り?」と訊いた娘だとは気付いていない。しかし、女の子が、「私、きれいだと思う?」と声をかけたので、じっと見てみる(3枚目の写真)。しかし、ミッケルが何も言わないので、ハンナはがっかりする。
  
  
  

それでも、ハンナは、気を惹きたくて、「私には、魔法ができるの。私が何かをしたいと願うと、必ずうまくいかなくなる。そのビンの栓を動かそうとするようなものね」と話しかける。ミッケルは、地面に落ちている栓を見る。そして、「フーディーニを知ってる?」と訊く。「誰?」。「ハリー・フーディーニ。世界一のマジシャンだよ」。ハンナは首を横に振る。ミッケルは栓を拾うと、「魔法じゃなく、ただの錯覚だよ」と言いながら、栓を 包帯をした方の手の平の上に置く(1枚目の写真)。「動かそうと思えば、動かせる」。そう言うと、包帯をした手で栓を握り、次いで、反対側の右手も握る。「でも、上手にやらないと」。そう言って、両手を握ったまま交差させる。「こっそりと」。そして、両手をポンとぶつけ、「すると、魔法みたいになる」と言い、両手を開くと栓は右手に移っている。「そんなの、どこで習ったの?」。「僕、未来から来たんだ」。「カッコいい」。「ううん、ただのミッケルだよ」。ハンナは、「はじめまして、未来から来たミッケル、私ハンナよ」と言って手を差し出す。ミッケルはハンナと握手し、ニッコリする(3枚目の写真)。過去に来てから 初めての笑顔だ。しかし、すぐに寂しげな顔に戻る。そのあと、バンは学校に寄る。助手席から出たハンナが玄関脇の立っていると、誰もいないはずの部屋〔倉庫のような場所〕から笑い声が聞こえる。ベンチに上って窓から覗くと、そこでは、憧れのウルリッヒが、カタリーナとセックスをしている。夢が破れたハンナは、復讐のため、警察に行き、エゴンに誇張して告げ口する。そこでは、嫌がるカタリーナをウルリッヒが無理矢理犯したことになっていた。ウルリッヒを嫌っていたエゴンは、さっそく逮捕に踏み切る。
  
  
  

その日の夜、ヨナスが自分の部屋に戻ると、そこにはダンボールの箱が届いていた。中に入っていたのは、不思議な発光装置、ガイガーカウンター、そして、古びて変色した父の遺書の3点だった。遺書は、母イネスが所持していたので、ヨナスは その存在すら知らなかった。これまで、イネスが読む姿は映っても、何が書いてあったのかが分からなかった。それが、ここで初めて明らかになる。「親愛なるヨナス。お前がこれを読んでいるということは、取り返しのつかないことは もう起きてしまった。もう済んでしまったことだが、これからお前に事情を説明したい。すべてが繋がっていることが分かれば、私の決断を分かってくれるだろう」。ここから、ミッケルが病室で横になっている映像に変わる(1枚目の写真)。「真実とは奇妙なものだ。隠そうとしても、顔を出そうとして止まない。生きていくために嘘をつく。忘れようともする。できる限りに於いて」(2枚目の写真)。「私達は、この世界の神秘の半分も知らない。暗闇の中の放浪者なのだ」。そして、11月4日の夜の映像に変わる。「これが私の真実だ。2019年11月4日。私は、1986年に移動した。未来から来た少年は、時がたち、大人になった。ミッケルはミハエルになったが、自分がどこに属しているか知らないままだった。お前が、これを読む頃、私はもういない。少年としても、大人としても。どうか私を許して欲しい。すべては結びついている。ミッケル/ミハエル」。そして、2人の写真が映る(3枚目の写真)〔自殺を決意した人間の文章としては、実に曖昧だ。「事情を説明したい」「すべてが繋がっている」と書いておきながら、結局、何も言っていない。その理由は、シーズン2になって分かる。この手紙は、ミッケルの自殺を止めに来た “少し未来のヨナスB” の言動が引き金となり、“自殺するつもりの全くなかったミッケル/ミハエル” が、突然に書いたものだった。彼には、すべての事情が100%理解できていない〕
  
  
  

ここから、第6話「世界は創られる」に入る。ミッケルが直接登場する場面はない。冒頭に映るのは、電柱に貼られたミッケルの写真。“VERMISST” とは、行方不明という意味だ。そのあと、町の通りの映像となり、町中がポスターだらけ(2枚目の写真)。なんせ、3人の少年が行方不明のままという異常事態だからだ。しかし、学校の一角を拡大していくと、そこには過去のいろいろな写真が掲示してあり、中の1枚は1987年の6年B組の集合写真。そこには、ミッケルがちゃんと映っている(3枚目の写真、矢印)。恐ろしい現実だ。
  
  
  

ヨナスは、以前、父の部屋で過去を偲んでいた時、天井の板に不具合があり、探ってみた結果、中からヴィンデン洞窟の手書きの詳しい図面を発見していた〔その地図が、洞窟のことなどほとんど知らない父の部屋になぜ隠してあったかは不明/父が隠したのでないことだけは確か/地図には、「どこで交差?」という妙な書き込みもあった(ワームホールの位置のこと)〕。ヨナスは地図を自分の部屋に持ってきていたが、今になって改めて取り出して見ると、最初に見つけた時にはなかった赤字での書き込みが加えられていた(1枚目の写真)。赤いルートは、洞穴の一部から知られていないルートで奥に向かうもので、矢印の先には、「印に従え!」と書いてある。このことは、誰かがヨナスの部屋に侵入し、ヨナスでも辿って入っていけるように加筆したことを意味する〔そのためには、ヨナスが地図を持っていることを知っていることが必要になる→書くとすれば、未来のヨナス(数ヶ月後のヨナスBか、33年後のヨナス)しかあり得ない。ただし、未来のヨナスは、洞窟に入るための照明器具とガイガーカウンターを郵便で届けているので、書き込みはヨナスBの可能性が高い〕。ヨナスは、地図、照明装置、ガイガーカウンターを持って洞窟に入って行く(2枚目の写真)。地図の赤い線のところまで来ると、岩に楔が打ち込まれ、それに赤いロープが結び付けてある。ロープが終わると、後は、ガイガーカウンターで反応の高い方に進む。反応が異常に高い通路状の〔手掘りの〕穴の先にあったものは、鋳物で出来た扉だった。中央には、「トリケトラ」が浮彫りになっている(3枚目の写真、矢印はトリケトラの下部)。トリケトラは「3つの結び目」を意味する古代ケルトのシンボル〔ここでは、1953年、1986年、2019年の3つの時代を結ぶという意味で使われている〕。そして、このシンボルの上下には、ラテン語で「SIC MVNDVS CREATVS EST(世界はかく創られり)」という文字も浮彫りになっている。ヨナスがドアを開けると、凄まじい風が起こり、町では照明が点滅する。ヨナスが洞内に入ると、扉は自動的に閉まる。そして、正面に見えたのは、二又に別れた通路〔後で分かるが、左が1953年への道、右は1986年への道〕。2つの通路とも同じ作りなので、ヨナスは迷った挙句右に入って行く(4枚目の写真、矢印は進行方向)。その後、ヨナスは無事1986年に出る。時間は夜のまま。雨の中バス停までくると、行方不明マッツのポスターがいっぱい貼ってある。しばらくすると、1台のバンが前に停まり、ハンナが顔を出す。父親が、「乗ってくか?」と声をかける。「1人で歩くには、夜遅すぎるぞ」。ハンナも、「雨の中に長くいるのは良くないわ〔チェルブイリの後なので〕」。しかし、ヨナスは、“少女ハンナ=母の少女時代” だと気付き、恐ろしくなって乗るのを拒む。
  
  
  
  

ここから、第7話「岐路」に入る。冒頭、病院の廊下が映り、ミッケルが壁に掛けられた絵を見ている(1・2枚目の写真)。なぜこの絵を見ているのかは分からない。ただ、絵の一番下にトリケトラが描かれているのが気になる(3枚目の写真、矢印はトリケトラ)〔ミッケルは、トリケトラには最後まで無知なので、この場面は “わざと撮った” だけの無意味な映像→ミッケル役のダーン・レナード・リエブレンツの写真をこれにしたので、敢えて選んだ〕。ついでに、後々意味のある言葉が幾つか出てくるので、紹介しておこう。1つは、ウルリッヒが検死係の女性医に、目が黒焦げになった少年の死体について、長期間保存されていた可能性について尋ねる場面。医師は、冷凍保存された形跡はないといい、33年前の死体の可能性を問われて完全否定する〔この死体は、33年前に殺されたマッツのものだが、殺害したヘルゲが洞窟を通して2019年に運んだため傷んでいない〕。2番目は、1986年、エゴンは、原子力発電所の門衛だったヘルゲに、マッツの失踪について質問に行く。そして、今は勤務中だと断られると、都合のいい日に署に来てくれと言う。ヘルゲは「明後日では?」と打診し、エゴンは、「火曜だな」と確認する。「10時半では?」。「それでいい」。日時が決まった後、エゴンは、簡単な質問をする。「勤務は18時に終わったんだろ?」。「ええ、それからが、夜間勤務になりますから」。「車で帰ったのか?」。「ええ、州道を通って」。「州道を通るなんて、どこか他に行くつもりだったのか? 森の道の方が近道だろ?」。「父さんを拾うためです」。2019年、ウルリッヒは、何か出て来ないかと、エゴンの1986年の手帳を見る。すると、11月11日火曜日の欄に、「10時半、ヘルゲ・ドップラーに対する取調べ、なぜ森の道じゃないのか〔Warum Nicht WALDWEG?」とだけ書かれている。この証拠を元に、ウルリッヒは署長のスマホに電話をかける。「1986年、ヘルゲが、マッツの件で取調べを受けることになっていたか知ってました?」。「いいえ」。「ヘルゲは1986年11月11日、火曜に取調べを受けるはずでした。しかし、記録はありません。彼は来なかったんです。そして、エゴンの手帳には、『なぜ森の道じゃないのか』という書き込みが」。「あなたは、ヘルゲがマッツを拉致したと思ってるのね? そして、今度は、ミッケルたち3人を?」。「今、彼はどこに?」。「老人ホームよ。75歳で痴呆症なの。それに、ミッケルが消えた夜は、私と一緒だった」。「しかし、ヤシンが消える前、ヘルゲは森にいたのを見られている」。署長の反対にもかかわらず〔義父にあたるので、署長は及び腰〕、ウルリッヒはヘルゲを容疑者筆頭に考える。
  
  
  

ヨナスは、森の中の監視櫓で朝まで過ごし、歩いて学校に行ってみる。廊下に座っていた女の子〔若き日のレジーナ〕に、「今日は何日?」と尋ねる。「11月9日」。「変に聞こえるだろうけど、何年?」。「86」。ヨナスが、そのまま去ろうとすると、レジーナは、「誰かを探してるの?」と訊く。「うん、友達だ。ミハエル・カーンヴァント」。「聞いたことない」。「イネス・カーンヴァントの息子だよ」。「看護婦さんの? 子供なんかいないわ?」。「どこに行けばイネスに会えるかな?」。「病院じゃない?」。雨の中ヨナスが病院に向かって歩いていると、パトカーに乗ったエゴンが停まる。ヨナスが腕をケガしたので病院に向かっていると嘘をつくと、病院まで乗せていってくれる。病院に入っていったヨナスは、廊下で会った最初の看護婦に、「僕、イネス・カーンヴァントを探してます」と声をかける。「彼女なら、外で、子供と一緒にいるわ」(1枚目の写真)。ヨナスは、すぐに玄関を出る。すると、ベンチでは看護婦が少年にゼリーを食べさせている(2枚目の写真)。ヨナスの祖母と父だ。車の陰に隠れるようにしてそれを見ていたヨナスの背後で声がする。「俺達が、如何に無知かだ」。ヨナスが振り向くと、そこには、昨日、聖クリストフォロス教会の前で会って “奇妙なこと” を話した男〔33年後のヨナス〕がいた。ヨナスは、男も時間移動してきた可能性よりも、自分が夢を見ている可能性の方が高いように感じ、「これって現実? それとも、僕は気が狂ったの? 父さんみたいに? そもそも、あなたは存在してるの? それとも狂人の幻覚なの?」と質問する。「君は狂っちゃいない。君の父さんもだ。慣れ親しんだすべてに逆らうような事態を把握することは難しい。“地球は丸い” と告げられた人々が最初どう感じたと思う?」。ヨナスは、バカにされたと感じ、「洞窟の中に、時間の割れ目でもあるの? ミッケルは、僕の父さんになるまで、ここでぶらぶらしてるの?」と、嘲るように訊く。「君が信じたくなくても、あれは君の父さんだ」(3枚目の写真)。「てことは、ウルリッヒは僕のお祖父さんで…」。未来のヨナス:「マルタ〔ヨナスの好きな女性〕は、君の伯母だ」。「そんなのたわ言だ。ミッケルを元に戻し、正しい状態にしてくる」。そう言って、歩き出そうとしたヨナスを、未来のヨナスは乱暴に引き止める。「分からんのか? お前がミッケルを連れ帰れば、事象に干渉することになるんだぞ! お前の父が母と出会うことはない。恋をして結婚もしない。だから、お前は生まれない! 今、彼を戻せば、お前は自分の存在を消し去ることになる。だが、こうしたことのすべてにおいて、お前の役割は、思っている以上にずっと大きいんだ」。ヨナスは、ミッケルを連れ戻すことをあきらめる〔それなら、なぜ、未来のヨナスは、彼を洞窟に行かせるよう仕向けたのだろう?⇒答えは、「かつて、自分がそうされたから」⇒しかし、そんなのは詭弁にすぎない〕
  
  
  

しばらくして病院内に戻ったヨナスは、廊下の自販機でジュースを買っているミッケルを目撃する(1・2枚目の写真)〔ミッケルの左脇には、松葉杖が置いてある〕
  
  

ミッケルの前にハンナが現われる。2人は廊下を挟んで見合う(1枚目の写真)。ヨナスがじっと見ていると、2人は何か話し、ミッケルが微笑み(2枚目の写真)、ハンナも微笑む(3枚目の写真)。ミッケルは11歳、ハンナは14歳だが、将来2人が結婚してもおかしくない雰囲気だ。それを見たヨナスは、何もせず、洞窟を通って2019年に戻る。家に直行したヨナスは、寝ている母のベッドサイドに座り、母の顔をじっと見つめる〔夜なので寝ている〕。気配を感じて目を覚ました母は、「どこにいたの?」と訊くが、ヨナスは、「宿命を信じる?」と訊く。「どうかしら。ママの宿命は、男に見放されることかも」〔ミッケルにも、ウルリッヒにも〕。ヨナスは、「パパは、ママのことすごく愛してたと思うよ」と、考え違いを訂正する。2人は抱きあう。
  
  
  

ウルリッヒは、夜、ヘルゲを問いただそうと、老人ホームの部屋に入って行く〔以前、日中に行った時は、看護婦に止められた〕。しかし、ベッドは空で、床まである窓は開いたままになっている。ウルリッヒはそこから覗くと、ちょうど、ヘルゲが施設を囲む森の中に入って行くところだった。ウルリッヒは、すぐに後を追う。そして、途中で署長の留守録に伝言を残す。「私の推測は当たっていた。やったのはヘルゲ・ドップラー。ただし、1986年の。至急、連絡を入れて欲しい」。ヘルゲは、まっすぐヴィンデン洞窟に向かう。ウルリッヒも後に続くが、気付かれるといけないので明かりを点けるわけにはいかない。洞窟に少し入ったところで、ヘルゲは隠してあった箱から電気ランタンを取り出し、奥に入って行く(1枚目の写真)。ウルリッヒは、その明かりを頼りに後を追う。ここから、第8話「因果律」に入る。ウルリッヒは、ヘルゲが入っていった扉をライターの火で点検する。すぐに開けると気付かれる恐れがあるので、しばらく待ってから扉を開ける。通路はもう真っ暗だ。ウルリッヒは通路を這い進む。そして二又まで来た時、ウルリッヒは右でなく左〔1953年〕を選んでしまう(2枚目の写真、矢印は進行方向)。ウルリッヒは洞窟から外に出るが、様子が全く違っているのに気付く(3枚目の写真、鉄柵が一部残っている)。ウルリッヒが森から道路に出ると、そこは見慣れたアスファルト舗装ではなく、未舗装の道だった。そして、たまに通る車は、おそろしく旧式。ウルリッヒの姿を見て、道を訊くために停まった車から降り立った艶やかな服装の女性は、アグネス・ニールセンと名乗る〔ウルリッヒの祖母〕。一緒に乗っていた15歳くらいの少年はトロンテ〔ウルリッヒの父〕。ウルリッヒは、驚いて2人の名前を訊き直し、「変なことを訊きますが、今、何年ですか?」と尋ねる。そして、「1953年」と言われると、逃げるようにその場を立ち去る。
  
  
  

ウルリッヒは、途中で入った店で、子供が店主に、「今朝、警官が何を見つけたか聞いてる?」と話すのを、見ている。「いいや」。「ドップラーの建設現場で、2つの男の子の死体を見つけたの」。ウルリッヒは、すぐ警察に向かう。ウルリッヒは、出て来た30代の警官〔若い頃の、エゴン・ティーデマン〕に、「今朝、見つけた2人は、どんな少年だった? 1人は、茶色の髪で、11歳じゃなかったか?」と訊く。「なぜ知りたい?」。「私の息子がいなくなった。死んだ少年のうちの1人が 息子じゃないかと心配なんだ。息子の名前はミッケル。11歳で、茶色の髪、青い目。このくらいの背の高さだ」(1枚目の写真)。「少年の1人は、濃い色の髪で、茶色の目。外国人だ。もう1人は、もっと背が高く、明るい赤毛だ」。「3人目がいないことは確かだな?」。「あんたは、息子の失踪を届けたのか?」。「ヘルゲ・ドップラーという名前に、心当たりはないか?」。「ベルント・ドップラーの息子か?」。「いいや、70くらいの老人だ」。「老人は、ベルント・ドップラーだけだ」。「原子力発電所の奴か? ベルントはヘルゲの父親だな?」〔建設開始は1960年だが、ベルントは1953年から 必要性を声を大にして訴えていたので、エゴンは発言に矛盾を感じなかった/ヘルゲは、母グレタの不倫もしくは強姦による子で、誰が本当の父親なのかは不明なのだが、内密にされていた〕。「そうだ」。ウルリッヒは、エゴンが留めるのも聞かず、警察から走って出て行く。向かった先は、何と、ドップラーのお屋敷〔町で一番の金持ち〕。庭に一人でいた9歳のヘルゲを見つけると、「君がヘルゲ・ドップラーだな?」と訊く。「そうだけど」。ウルリッヒは、ヘルゲの横にあった箱について訊く。ヘルゲが蓋を開けると、中には鳥の死骸が入っている。「君が殺したのか?」。「空から落ちてきたんだ」〔誰かがワームホールを通る度に、鳥が大量に死んで落下する事象が起きる〕「それを拾っただけ。死んでると、とても美しいから」。この言葉が、恐らく最後の引き金となった。「君は、いつか、人を殺すようになる。建設現場の2人の少年。私の弟。私の息子。今じゃない、未来にだ。だが、それを変えることはできる。過去を変えれば未来も変わる」。そう言うと、危険を感じて既に逃げ出したヘルゲを捕まえる。「君さえ、いなければ、あんなことは全部起きない」。ヘルゲは、殺されると思い、口を押えた手に噛み付いて逃げ出す。森の中を全力で走るが、小屋まで来たところで再度捕まってしまう。ウルリッヒは、ヘルゲを組み敷くと、レンガでヘルゲの左側頭部を、耳が潰れて血まみれになるまで、何度も叩き続ける(2枚目の写真)。そのままだと死体が見つかるので、ウルリッヒは、近くにあった半地下式の貯蔵庫の中まで引きずっていく。ここから、第9話「すべては今」に入る。冒頭、ヘルゲがいなくなったことに気付いた母が夫に話す。ベルントは警察に行き、エゴンに失踪を告げ、何が何でも捜し出してくれと頼む。エゴンは、昨日、ヘルゲについて尋ねた男のことを思い出す。そして、パトカーで走っていると、たまたまウルリッヒが道路沿いに歩いている。それに気付いてパトカーを急停止させると、ウルリッヒは逃げ出す(3枚目の写真)。これで、犯人は確定したようなものだ。エゴンが「止まれ! 警察だ!」と叫んでも、ウルリッヒは逃げ続ける。ここで、最も不自然な点は、エゴンが洞窟に先回りすること〔①ウルリッヒがどこに向かっているかなぜ分かったのか? ②そもそもウルリッヒは最短ルートを走っていたのではないか?〕。ウルリッヒが洞窟に入る手前でエゴンが飛びかかり、拳銃を1発空に向かって撃ち、「止まれ!」と命じる。「建設現場にいた2人の少年に何をした? ヘルゲはどこだ?」。ウルリッヒは、「2人の少年? そんなことはあり得ん。もう変えた」〔ヘルゲを殺したから〕。「何を変えたんだ?」。「時の流れだ。ヘルゲは死んだ。奴には、もう殺すことはできん」。「お前は気違いだ」(4枚目の写真)。その頃、貯蔵庫の中では、死んだはずのヘルゲが、重傷ながら覚醒していた〔ヘルゲの死を確認しなかったウルリッヒが甘い〕
  
  
  
  

ここから、シーズン1の最終・第10話「アルファにしてオメガ」に入る。1986年のミッケルとイネスのシーンの前に、2019年11月12日のヨナスとイネスのシーンが入る。そこで明かされる重要なことは、イネスは、最初こそ、ミッケルは想像力が豊か過ぎる子で、その理由は、何か耐えられないような経験をしたからだと思い、未来から来たと言われても信じなかった。しかし、いつの時点からか〔明らかにしない〕、未来から来た子だと、ある意味では知っていた。そのことでヨナスは母を責めるが、イネスは、かつてミッケルを、「過去は過去、今は今」と言って宥めたように、「過去は過去、あなたは、今、ここで生きてるの」と言って宥めようとする。そして、1986年。ミッケルとイネスは親しくなっている。「子供の頃のフーディーニの夢は、マジシャンになることだったんだよ」と言いながら、以前、父に見せた手品をイネスにも見せている(1・2枚目の写真)。「あなたも、マジシャンになりたいの?」。「そうだよ。でも、僕がやりたいことは、不可能なんだ」。「どんなこと?」。「目を覚ますこと」〔2019年に戻ること〕。イネスは、「ツアン師のパラドックスって聞いたことある?」と尋ねる。ミッケルは首を横に振る。「私は、蝶でありたいと願った。私が目を覚ますと、蝶でありたいと夢見た人間なのか、人間でありたいと夢見た蝶なのか、分からなくなっていた」。そして、「あなたはどっち? 人間、それとも、蝶?」と訊く。「たぶん、両方」。そう答えると、ミッケルは、2つのコップを順に上げ、中にある2つの角砂糖を見せ〔種明かし〕、にっこりする(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、1953年の警察署では、逮捕されたウルリッヒの前にエゴンが立ちはだかる。「私の名前は、エゴン・ティーデマンだ。まず、名前を話してもらおう」。ウルリッヒは、「ティーデマン? あのエゴンか。そうだろうな」と嘲るように言うと〔若い頃のウルリッヒは、退職直前のエゴンにさんざん虐められたので、クズ警官だと思っている〕、英語で、「My only aim is to take many lives. The more, the better I feel(俺の目的はたくさんの命を奪うこと。多ければ多いほどいい)」と言う。「悪魔崇拝か?」。「違う、警官だ。80年代の歌だ。教えておいてやる」。「なぜ、子供達を殺した?」。「殺してはいない。救おうとしたんだ」。「ヘルゲに何をした?」。「奴は、まだ生きてる。そうに違いない。でなければ、子供達は死んでないはずだ」(1枚目の写真)〔正しい論理だが、エゴンには理解不能な妄言でしかない〕「私は、起きてしまったことを変えることができる。だから、今すぐに行かせろ」。しかし、意味のない言葉は無視され、署内の監房に閉じ込められる(2枚目の写真)。
  
  

ヨナスは、新しく判明した事実にどうしても馴染めない。特に、大好きなマルタが伯母だと分かって関係を断ったことから、親友のバルトシュまで失う。いわば八方塞がりとなったヨナスは、状況を正そうともう一度1986年に向かう〔この部分も理解できない。マルタを伯母にしないためには、ミッケルを父にしなければいいが、そうすればヨナスの存在そのものも消えてしまう。彼は、いったい何をしに戻ったのか? その後に起きる事件のための脚本上のトリックか?〕。水曜になり、青少年局の女性職員が、ミッケルを引き取りに来る。ミッケルは、荷物をまとめてベッドに寂しそうに座っている(1枚目の写真)。職員は、イネスに、「いつ、会いに来てもいいのよ」と言い、今度は、ミッケルに、「新しいおうちに行きましょうね。他にもいっぱい子供達がいるわよ」と声をかける。ミッケルは、身動き一つせず、振り返ることもしない。それを見たイネスは、職員を部屋の外に連れて行き、「私、決めたわ。あの子を養子にしたい」(2枚目の写真)と言い出す。「手続きの間に、暫定的な親権も取るわ」。「そんなに簡単には行かないの」。「身元保証人も、自分の家もあるわ」。「とても複雑な手続きが要るの。ここで決めるわけには…」。「あの子は、私が好きなの。信頼してくれてる。ここで、あの子が気を許してるのは私だけ。そして、私、あの子が好きなの」。
  
  

洞窟を抜けたヨナスが森の中を歩いていると、死んで落ちてきた鳥の絵を書いている娘〔若き日の署長シャルロッテ・ドップラー〕と出会う。「今日はいつ?」。「12日」。「何年の?」。「86年」。それだけ聞くと、ヨナスは去ろうとする。娘は、「この町の人?」と訊く。ヨナスは振り返ると、首を振って否定する。「ここで、何するの?」。「ある人を 生き返らせる」〔ミッケルを2019年に連れ戻すということか?/ヨナスはヘルゲのことは知らないので、ウルリッヒがやろうとしていたような “生き返り” は起こせない〕。「どうやるの?」。「とても説明できない」。「鳥も生き返る?」。「死んだという事実は変わらない」。「どうかしてるわ」。「たぶん」。この直後、2019年の署長の場面になる。彼女は、パソコンで過去の記事を調べている。ヘルゲの失踪を伝える記事がある(1953年11月10日付け)。そして、誘拐した身元不明者のページに移動すると、そこに映っていたのは、ウルリッヒだった(1枚目の写真)。署長は、詳細は分からないものの、何が起きたかを悟る。その直後、場面は1953年のウルリッヒの監房。警棒を持った男数名が入って来る。「ヘルゲはどこだ? 話したくないか? どうしたら話すか教えてやる」。3人はウルリッヒを警棒で めった打ちにする(2枚目の写真)。
  
  

ヨナスは、暗くなってから病院に入ると、ミッケルの病室のドアを開ける(1枚目の写真)。ベッドに横たわったミッケルの前にはノアがいる(2枚目の写真)。ヨナスは彼が何者なのか、まだ知らない。ヨナスは、自分の方を振り向いたノアに、「あなたは、誰?」と訊く。その瞬間、ドアの後ろに隠れていたヘルゲが薬品を浸み込ませた布をヨナスの口に押し当てる(3枚目の写真)〔ノアは、ヨナスが来ることを前提にヘルゲを待機させていた。どうやって知ったのだろう? 合理的な説明は絶対にできない〕。ヨナスは気を失う。気が付いた時、彼は奇妙な部屋の中にいた。部屋の真ん中には奇妙なイスが置いてある〔これまで、何人もの少年が実験台として使われ、殺されてきた地下室〕。その時、鋼鉄製のドアに付けられた小さな覗き穴が開く。「怖がる必要はない」。ヨナスは、「おい、何のつもりだ。なぜ、僕を閉じ込めた?」と、覗き穴から怒鳴る。穴の外にいたのは、前に2度会った不思議な男だった。男は、「やったのは俺じゃない、ノアだ」と教える。「ノアって誰? ここはどこ? これは何?」。「これは、タイムマシンの試作品だ。君は実験台だ。洞窟にある通路は、この地下室の真下にある。もし、扉が開けば、エネルギーがこの部屋に流れ込む。しかし、増幅が必要だ。世界初のタイムマシンは、4つの壁で囲まれた地下室だ。だが、未だにちゃんと動かない」。「ここから出して」。「できない」。「あんた、誰なんだ?」。「分からないか? 俺は君だ。俺はヨナス・カーンヴァントだ。君に手紙を送ったのは俺だ。君が経験したことはすべて、俺が経験したことだ。君をここから出せないのは、俺も出してもらえなかったからだ。もし、過去を変えると、今の俺は俺でなくなる」〔ここに、未来のヨナスが現われたということは、現在のヨナスも無事ここから脱出できることを意味している〕
  
  
  

イネスとミッケルが手をつないで一軒の家の前に来る(1枚目写真)。イネスは、ミッケルの頬を優しく撫ぜ(2枚目の写真)、ミッケルは嬉しくてイネスに抱きつく(3枚目の写真)。逆境の中にあって、イネスは最大の救い主だ。ミッケルの実の母カタリーナより、人間的によく出来た人物だ。シーズン1のラスト。未来のヨナスは、時計屋のタンハウスと協力して修理した小型のタイムマシンを持って、洞窟の扉の中の二又に行き、マシンをONにする。すると、ヨナスが閉じ込められた地下室と、9歳のヘルゲが閉じ込められた貯蔵庫をつなぐワームホールができる(4枚目の写真)。2人が手を触れた瞬間、ヘルゲはヨナスがいた1986年の地下室に、ヨナスはヘルゲのいた貯蔵庫に飛ばされるが、それは1953年では2052年だった。
  
  
  
  

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